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企業研究者からアカデミアへ転身
-金属からもみ殻まで、素材の可能性を追求

近藤 勝義

大阪大学接合科学研究所 教授

近藤 勝義

縁が繋いだ企業からアカデミアへの道
背中を押したのは意外なことば

実は、初めから大学で研究を続けようと思っていたわけではないんです。もともとはものづくりに関わる研究がしたくて、修士号取得後に企業へ就職しました。それから数年後、初めて国際会議で研究発表をする機会を得ました。ビギナーズラックだったかもしれませんが、その発表で非常に高い評価をいただくことができました。その時に「僕の研究でも海外の人にこんなにも評価してもらえるんだ」と嬉しさがこみ上げ、研究へのやる気が一層高まり、もっと深く研究をしたい、という思いが強くなりました。

だからといって、そこからすぐに研究の場を大学へ移したというわけでもありません。転機となったのは、ある学会での発表をご覧になった東京大学の先生から「うちに来ないか」と声をかけてもらったことです。その頃私は企業での研究開発に追われており、お断りしようかと思っていたのですが、役員の方が「そういう機会は断るべきではないよ」と背中を押してくださいました。その結果、当時としては珍しく企業に籍を置いたまま、東京大学先端科学技術研究センターで研究をすることになりました。

東京大学で勤務して6年ほど経つ頃には、大学という研究の場に魅力を感じながら、企業の現場感覚を失うことへの焦りも生まれていました。その頃雇用の更新時期になり、大学で研究することを応援してくださった役員の方に再び相談をしました。すると、返ってきた言葉はなんと「好きにしていいよ」。突き放したように聞こえるかもしれませんが、そうではなく「企業に戻るならポストを用意するから、近藤さんが選んでいいよ」と、私の選択を尊重してくれたのです。考えた末、アカデミアで研究を続けていくことを決意。当時大阪大学工学研究科長をされていた恩師の豊田政男先生にご相談し、接合科学研究所のポストがあることを教えていただき、現在に至ります。

他人任せの人生と言ってしまえるかもしれませんが、多くの人の後押しやご縁があってこそ、今の自分がいます。

時代のニーズにアンテナを張り、
素材の可能性を拓く研究に取り組む

私の研究室では、環境問題をはじめとした社会課題解決に貢献する研究テーマを多く扱っています。大阪大学に着任した頃は、CO₂削減に向けた軽量化素材が注目されていたこともあり、自動車や飛行機の軽量化を目的に、マグネシウムやアルミニウムの研究に取り組んでいました。その後、海洋関連の用途に適した素材が求められるようになり、船舶など過酷な環境で使用される重要な素材に国の大きな予算が割り当てられました。そこで、私は高い耐腐食性を持つチタンに注目し、希少金属を含まない高強度チタンの研究を開始しました。この研究は「完全レアメタルフリー高強靱性純チタン粉末焼結材の研究」として評価され、文部科学大臣表彰科学技術賞の受賞につながりました。その他、健康や環境に悪影響がある鉛を使わない新しい黄銅の開発なども行いました。この研究は、環境低負担の素材を世界に先駆けて開発したということで、市村学術賞をいただきました。このように研究の成果が大きな賞として認められると、とても嬉しいですね。

研究手法として、前述のような金属を粉末にし、固めて形状を作り出す研究開発に取り組んでいるのですが、粉末つながりで、もみ殻から抽出したシリカを粉末にして活用する研究にも長年取り組んできました。シリカは半導体、化粧品、食品など幅広い分野で利用されていて、結晶構造の違いによって性質が異なる物質です。現在、市場で多く利用されている「結晶性シリカ」は、実は発がん性があり、人体に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されています。一方で、「非結晶性シリカ」は安全だとされています。そこで、私は米を脱穀した際に生じる「もみ殻」に含まれる非結晶性シリカを活用することを思いつきました。

もみ殻は焼畑や発電エネルギー源として利用されますが、その過程で副産物としてシリカが発生します。しかし、もみ殻に含まれる非結晶性シリカは、焼却時に発がん性を持つ結晶性シリカに変化してしまうという課題がありました。そこで、私の研究室では、もみ殻にひと手間加えることで、特殊な装置に依存せず、焼却しても非結晶構造を維持し、純度の高い非結晶性シリカを抽出する技術を開発しました。この技術により、大量に廃棄されているもみ殻を、安全かつ有効な素材として利用できる道が拓かれ、地域経済の発展にも寄与する大きな社会的意義を生み出すことができました。特に、稲作の盛んなアジアや南米の国々との協力が進んでいて、環境改善に貢献しています。

もみ殻シリカ

研究の先には大きな喜びがある
興味の赴くままにチャレンジを!

研究を続ける中で「これは!」という成果にたどり着いた時は「やった!」と思う瞬間ですね。そして、それが時代のニーズと結びつく過程を経験すると、研究者としてのやりがいと大きな喜びを感じます。研究成果が、企業から評価され社会実装されることや、影響力の高い学術誌に掲載されて大きな賞に繋がるのは、非常に嬉しいことでもあります。

ポスドクや若い先生方には、周りの人と同じ道を歩む必要はなく、興味の赴くままにチャレンジしてほしいです。昨今研究時間の確保は課題ではありますが、大学側が業務の簡素化・省力化に取り組むのはもちろんのこと、研究者自身も、研究に付随する作業や研究のやり方自体をどんどん効率化して、やりたいことをやる時間を作っていってほしいと思います。

コラム

Column

気分転換は?

フィットネスジムに行くこと。経営企画オフィス長に着任してからは、通う頻度が増えたかもしれません(笑)

阪大に欲しいもの…

キャンパス内にキッチンカーがたくさん来ること。時間帯によってランチやデザート、晩ごはんを提供しに来てくれたら素敵だと思いませんか?

プロフィール

Profile

近藤 勝義 KONDOH Katsuyoshi

大阪大学接合科学研究所 教授

博士(工学)。1988年大阪大学工学研究科修了後、住友電気工業株式会社に入社。2002年東京大学先端科学技術研究センター助教授を経て、2006年大阪大学接合科学研究所教授就任。2024年大阪大学経営企画オフィスオフィス長就任。現在に至る。

掲載日:2025月3月21日/取材日:2024年12月20日 内容や経歴は取材当時のものです。

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