物理を通じて知る、世界の美しさと本質を探る楽しさ


大阪大学レーザー科学研究所 教授
岩田 夏弥
生き物、物質、そして世界が「美しく」存在していることは数式で表現できる!
もともと理科の勉強は得意というほどでもなかったのですが、生き物には子どもの頃から興味がありました。特に心を奪われたのはイルカです。イルカに関わる仕事に就くことを夢見ていて、当時はイルカのトレーナーになりたいと思っていました。ところが、中学生の頃に、水族館の方にどうしたらトレーナーになれるのか尋ねたところ、「そんなにイルカが好きなら、トレーナーよりもっと深く関われる獣医や研究者がいいのではないか」とアドバイスをいただいたのです。その言葉をきっかけに研究者という職業を意識するようになりました。
理学部で扱っていることが基本的に好きだなと思い、大学は理学部へ。そこでさまざまな授業を受ける中で、波の方程式に巡り合いました。自然現象を数式で表せることに感動し、物理の道に進もうと決意。「生き物もまた、物理で理解できるのではないか」と、この頃から考えるようになりました。例えば、イルカが美しいのは泳ぐために最適化された形をしているからであり、生き物は地球上の環境を巧みに利用して進化してきた結果「美しく」在るのではないか。こうした視点が、物理の面白さに目を向けるきっかけになりました。
物質が作り出す現象をどうやって紐解く?
私が研究している「プラズマ」は、気体が高温下などでエネルギーを受けて電離し、電子とイオンが自由に動き回る物質状態です。それぞれの粒子は一見ばらばらに動いているようでありながら、集団として見ると巨大な現象を作っているところに魅力を感じています。
理論の研究では、計算やシミュレーションを重ねていくわけですが、数式と現象が結びついたときは何にも代え難い喜びがあります。また、計算を重ねる中で、予想もしなかったような項が数式の中に現れ、それが計算間違いではなく新しい展開や本質から導き出されたものであると気が付いたときは、本当に嬉しい瞬間です。ただし、そこに至るまでには多くの試行錯誤があり、シミュレーションやこれまでの文献と比較し、組み合わせを考えながら検証を重ね、最初の構想から数式の形になるまでに1年以上かかることもあります。また、理論の研究は、モデルを構築すれば完結するというものではなく、実験チームと共同で研究を進めていくケースもあり、こんな風に時間をかけて、最初に知りたかったことに少しずつ近づいていく、その過程にやりがいを感じています。ときには、何週間もかけた計算が成果に結びつかないこともありますが、そうした経験こそが次につながる糸口になるのだと思います。研究室の学生さんたちもさまざまなことに挑戦してくれていて、それが良い刺激となり、研究がさらに広がっていくのを実感しています。これからも、一つひとつの課題に丁寧に向き合いながら研究への取り組みを進め、自然現象の普遍的な仕組みの解明に少しでも近づいていきたいと考えています。
いろいろな分野に興味を広げて
学生のうちは、できるだけ幅広く授業を受けて、いろいろな分野に興味を広げてみてください。私自身、最初から「これが好き」というものがあったわけではなく、何に興味があるのかもよくわからないまま、さまざまな授業を受けていました。でも結果的にそれが良かったと思っています。そして、研究職に興味があるなら、ぜひ多くの研究室を訪れてみてください。研究室に入った後も、分野を移ることを躊躇せず、多くの体験を重ねていってほしいと思っています。
物理の研究を通して物事の本質に触れられたとき、この世界の見え方ががらりと変わる感覚を味わえます。それは、自分自身のものの見方が深まるという体験でもあり、そうした知的な視野の広がりを日々感じられるのが、この仕事の魅力です。
コラム
Column
ストレス発散方法は?
絵を描くことと水泳です。どちらも無心でいられる、大切な時間です。泳いでいるときはビート板の持ち方から生じる波の違いが面白く、指で波を立てて「この波の形がきれいだな」などと思って遊んでいます。
旅先で印象に残ったことは?
国際会議などでさまざまな国に行く機会があり、どの国も印象に残っています。現地の文化や人々の日常に触れられるので、毎回とても刺激的です。それと同時に、いかに自分が日本の歴史について知らないかということを痛感させられます。周りの研究者には自国の文化や歴史に造詣の深い方が多く、滔々と語ってくれます。私も同じように日本の文化や歴史を語れるだろうか・・・理系、文系に関わらず、研究者として教養の重要さを感じています。
プロフィール
Profile
岩田 夏弥 IWATA Natsumi
大阪大学レーザー科学研究所 教授
博士(エネルギー科学)。2019年大阪大学レーザー科学研究所特任講師(常勤)に就任。同大学高等共創研究院准教授を経て、2025年から同大学レーザー科学研究所教授。現在に至る。
掲載日:2025年7月7日/取材日:2025年2月7日 内容や経歴は取材当時のものです。
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お話を伺って
研究室には、先生が描かれたかわいらしい絵があちこちに飾られており、インタビュー中も思わず目を奪われました。先生のお話は終始穏やかで、独自に編み出されたオリジナルキャラクターについても丁寧にご説明いただきました。研究にも趣味にも、楽しい部分や魅力を探りながら取り組まれているご様子が印象的でした。(古谷、加藤)