#016

人との出会いが紡ぎだす、私の結晶研究

丸山 美帆子

大阪大学大学院工学研究科 教授

丸山 美帆子

人生を変えた出会い
結晶研究への出発点

私は子どもの頃から自然が好きで、田舎の祖父母と一緒に庭木や土に触れたり身近な花を観察したりする時間を通して、自然への好奇心が育まれました。また、小学校時代の恩師が環境問題について教えてくださったことも、私の人生に大きな影響を与えた出来事です。先生の授業で地球温暖化問題を知り、「地球のお医者さんになりたい。」という思いが芽生えました。その幼い夢は、改めて振り返ると、私が研究者の道に進むきっかけだったのかもしれません。  

東北大学に入学して間もなく、『結晶は生きている』と題した塚本勝男先生の授業がありました。そこで、溶液中の水分が蒸発するにつれ結晶が析出する様子を顕微鏡で見て、「こんなに小さくて可愛い六角形の結晶が動くんだ。」と心を奪われたのです。授業が終わった後も残ってずっと顕微鏡を覗いていると、塚本先生が「もっと面白い顕微鏡があるよ。」と声をかけてくださり、それがきっかけで、1年生から塚本研究室に出入りして結晶成長分野に触れました。ある時、塚本先生に「二酸化炭素を減らして地球温暖化を防ぎたいんです。」と言ったことがあるのですが、塚本先生は「二酸化炭素なんて結晶化させて閉じ込めてしまえばいいじゃない。」と言われ、その瞬間、私は結晶の可能性と面白さに引き込まれました。このような経験が私の結晶研究への出発点となったのです。

異分野の仲間とひらく新しい研究の扉

私が研究活動を進める中で感じるのは、異なる分野の仲間と出会い、つながりを紡いでいく面白さです。その中で、今も鮮明に覚えているのは森勇介先生との出会い。学会の特別講演で森先生はタンパク質の高品質で大型な結晶を育成する際に、積極的な溶液撹拌を施す技術やレーザー照射によって良質な結晶核形成を促す技術について発表されていました。いずれもこれまで塚本研究室で見てきた良質なタンパク質結晶育成とは全く違う方法でした。そこで、うまく結晶を育成するメカニズムについて質問したのですが、森先生からは「メカニズムはまだわかってません。まずは作ることが大事。」という答えが返ってきました。その考え方の違いに衝撃を受けました。その時の印象が強く、後に私が就職先を考えた時に、森先生に突撃しポスドクとして雇ってほしいとお願いしたのです。森先生も「あの時質問してくれた丸山さんですね。」と私のことを覚えてくださっていました。勇気を出して森先生に質問したことが今の私につながっています。

森先生の研究室は、新しい発想をともに喜び合えるオープンな環境で、異分野連携を積極的に推進していました。ある時、名古屋市立大学医学部の安井先生、岡田先生が「結晶を作れるなら溶かすこともできますよね。」という発想で森研に尿路結石を溶かす共同研究の相談に来られ、有機物や生命系のテーマを担当していた私も一緒にお話を伺いました。その席で、私は「尿路結石は隕石に似ている。」と思いつき、隕石が46億年にわたる太陽系の成り立ちを伝えてくれるのと同じように、尿路結石は30センチほどの尿路の中で起きたエピソードを読み解く鍵になるのではないか、と考えたのです。名市大の先生方もその発想を「面白い!」と評価してくださり、これが現在手掛けているMETEOR(Medical and Engineering Tactics for Elimination of Rocks)プロジェクトにつながりました。

仲間とともに限界を超えよう

私が大切にしているのは、「人とのつながり」と「仲間の存在」です。一見、何も共通点がないと思われるような人であっても、ちょっと話せば、例えば好きなゲームが一緒といった共通点が見つかる。異分野の研究者であっても、「この部分似てませんか?」と話すと一気に距離が縮まる。このようにして、新しい仲間に出会って共感し合うと、新しい研究につながることがあります。

 研究活動は、困難に直面することが多いですが、仲間がそうした瞬間を支えてくれます。そういった意味では、研究活動はRPG(ロールプレイングゲーム)に似ていますね。異なる個性や能力を持つ仲間が集うことで、自分一人では到達できないような高みにたどり着くことができます。仲間とともに挑み続ける姿勢が、個々の限界を超え、より大きな成果へとつながっていくのです。

これから研究者を目指す皆さんには、ぜひ多くの人との出会いや分野を超えたつながりを大切にしてほしいと思います。素晴らしい研究者を見つけたら、その時に迷わずつながりを作ってください。突撃してチャンスをつかむことが未来を切り拓く鍵になります。皆さんにも、仲間とともに限界を超え、研究の楽しさを心から実感してもらいたいですね。

コラム

Column

ストレス解消法は?

石のコレクション。オーケン石、桜石、トルマリン、輝安鉱・・・・。愛でて癒されています。
小さい時から綺麗な石を集めるのが大好きで、それが私の研究の原点になっています。今もついつい衝動買いをしてしまいます。
あと、子どもたちとアニメを見ること。Dr.STONEが大好きです!

大阪大学の中で好きな場所は?

ここ!私の居室です!
先日、引っ越したばかりなのですが、学生さんたちにも力を借りて整えました。部屋のカーペット替えとか、そういうところから手伝ってくれた学生のみんなには感謝です。みんなが集いやすい、明るい空間を目指しています。

お勧めの本は?

堺屋太一著『日本を創った12人』
(森先生に勧めていただきました。日本人の思考パターンや気質を歴史上の人物のエピソードを通して検証するという内容。面白かったです。)
田近英一著『46億年の地球史: 生命の進化、そして未来の地球』
(学生の頃に学んだ内容の一般向け書籍。東大の先生と共同研究の話をしていて、その先生が読んでいると聞き、懐かしくなりました。分野の進展に驚きます。)
丸山美帆子・長濱祐美著『理系女性のライフプラン あんな生き方・こんな生き方 研究・結婚・子育てみんなどうしてる?』
(ライフイベントやいろいろな壁に直面した時の私たちの経験や失敗が皆さんの糧になればと思い、仲間たちと一緒に本を書きました。)

プロフィール

Profile

丸山 美帆子 MARUYAMA Mihoko

大阪大学工学研究科 教授(栄誉教授)
博士(理学)。2004年東北大学卒業後、2009年同大学院地学専攻で博士号を取得。2009年より大阪大学工学研究科特任研究員、2011年同特任助教、2020年同大学高等共創研究院准教授を経て、2022年より現職。また、京都府立大学大学院生命環境科学研究科特任教授も兼任。2024年大阪大学栄誉教授の称号授付。

掲載日:2025年7月14日/取材日:2025年1月29日 内容や経歴は取材当時のものです。

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