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想定外の現象を追究し、
ワクワクの先に新たな研究領域を開く

三浦 雅博

大阪大学先導的学際研究機構 特任教授(名誉教授)

三浦 雅博

博士に憧れて化学の世界へ

子どもの頃から、新しいものや社会の役に立つものを生み出す「博士」に憧れていました。当時見ていたアニメ「鉄腕アトム」のお茶の水博士の影響でしょうか。数学や物理にも興味があったのですが、フラスコがぶくぶくしているイメージというか、「新しい物質を見つけて社会に貢献できるのでは」という漠然とした期待から、進学した大阪大学では応用化学を専攻しました。

博士課程で行った研究内容が縁で一度は企業へ就職しました。企業での研究は目的がはっきりしていて、それはそれで良かったのですが、基礎研究に取り組みたいという想いが膨らみ、二年弱で助手として大阪大学へ戻りました。大学ではある程度自由に研究テーマを設定できますが、当初は「役に立つ化合物を生み出す反応を開発したい」と思うあまり、「成果を生み出さないと」というプレッシャーもありましたね。

「直接的芳香族カップリング」の発見で、
触媒研究の発展に貢献

助手として着任した野村正勝教授の研究室は、石炭や重質油の高度利用が専門領域。学生時代、石油危機の影響を受けて石炭から液体燃料を作る研究が注目されるのを目の当たりにしていたこともあり、私自身好奇心を掻き立てられる研究分野でした。教授とのディスカッションや共同研究を進めながら、石炭に含まれる芳香族化合物を高付加価値にする研究に取り組むことを決意。学生やスタッフとともに目的化合物を得るための触媒の研究を重ねる中で、短い工程で化合物を生成することが可能となる画期的な手法「直接的芳香族カップリング」をいくつか開発しました。

これらの反応に関する研究初期には、「これまでの研究の延長線上にあるものだ」と思われて論文が採択されにくいこともあったのですが、だんだんと「いや、これらは従来よりも効率が良くて環境負荷の小さい新たな手法だ」という理解が広まり、世界中の多くの有機化学者が私たちの開発した方法をさらに深掘りしてくれるようになりました。その結果、私たちの方法を基に様々な反応が生まれることや、違う触媒を用いても同様の反応が起こせることを示してくれたのです。

(参考:高被引用論文著者として、2012年にトムソン・ロイター社のリサーチフロントアワードを受賞し、2014年から2018年にはThomson Reuters/Clarivate社のHighly Cited Researcherに選出されている。日本化学会学術賞(2013年)、GSC(グリーン・サステイナブルケミストリー)賞・文部科学大臣賞(2014年)、Humboldt Research Award(2015年)、石油学会賞(2016年)、日本化学会賞(2019年)受賞。)

研究はワクワクするもの
ディスカッションの中で自分ならではの視点を見つけて

化学の分野に限らないと思いますが、研究を進めるうちに思わぬ現象に遭遇することがあります。大抵は「こんなことができたらいいな」を実現するために試行錯誤を重ねますが、こんなこと「じゃないこと」が起きた時がおもしろい。「なぜこんな結果が出てきたんだろう?」と突き詰めることで、それまで誰も見つけていなかった現象が見つかり、新しい領域が開けることがあります。思わぬ現象が生まれていることに気付いて追究できるのは研究者だからこそであり、まさに研究の醍醐味だと感じています。

また、研究はワクワクするものでもあります。学生を指導する立場になっても、学生と一緒に計器の針の動きを見るのが楽しくて仕方ありませんでした。教授になって個室が与えられてからも、早く実験結果が見たくてそわそわしてしまい、学生から「先生、10分おきに部屋から出てきていますよ」と指摘されたこともありましたね。

自分にしかできない研究に取り組むきっかけや動機付けには、ディスカッションが不可欠だと思います。研究は一人でできるものではなく、多くの人と関わり合いながらチームとなって進歩するもの。それが研究の楽しさでもあります。オリジナリティのある研究を見つけるのには時間がかかりますが、メンターやラボのメンバー、時には分野外の人たちと様々な意見を交わす中で、「その手があったか!」と思える瞬間を得てほしいです。その気付きを深掘りすることが、これまでにない自分ならではの切り口の研究となっていくはずです。

コラム

Column

阪大のお気に入りの場所は?

長く阪大にいる中で、キャンパスの風景は大きく変わりましたが…。私が学生だった頃は、今の医学部保健学科やその東のあたりは大阪万博で使用された駐車場の跡地のままで、土曜日にはよく研究室対抗の野球の試合をしていました。

印象に残っている国は?

ドイツです。私自身カールスルーエ工科大学へ1年間留学していました。また、大阪大学がアーヘン工科大学との交流プログラム(日独共同大学院プログラム2010-2018、国際先導研究2022-2028)なども行っていて、縁の深い国です。

プロフィール

Profile

三浦 雅博 MIURA Masahiro

大阪大学先導的学際研究機構 特任教授(名誉教授)

工学博士。大阪大学工学部助手、同助教授、工学研究科教授を経て、2021年4月より大阪大学先導的学際研究機構特任教授。同年、大阪大学経営企画オフィス長補佐に就任。現在に至る。

掲載日:2025年3月21日/取材日:2024年12月26日 内容や経歴は取材当時のものです。

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