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考え抜く先に広がる未来
資源循環と高機能を両立した材料開発を目指して

古賀 大尚

大阪大学産業科学研究所 准教授

古賀 大尚

恩師との出会い、それが私の人生の転機

実は子どもの頃から研究者を目指していたわけではないんです。小さい頃からおぼろげに資源・環境問題に対して危機感を抱いていたので、森林資源科学を学べる九州大学農学部に進みました。大学生の初めも電力会社とか資源・環境問題に関わる企業に就職したいと考えていて、研究者としてこの問題に取り組むことは全く考えていませんでした。研究者になりたいと思ったきっかけは学部3年生の時に恩師である北岡 卓也先生に出会ったこと。この出会いが私の人生の転機でした。

北岡先生は奇抜なアイデアを思いつき、それを実現してしまう方です。例えば、“水素を作る紙”や“排ガスを浄化する紙”なんて誰もが驚くアイデアを思いつき、それを実現し企業とともに製品化までしてしまいます。研究者として尊敬するとともに、教育者としても素晴らしい方です。厳しさの中にも温かさがあって、学生のことを大事に想いしっかり寄り添ってくれます。先日、とある受賞式に北岡先生も出席してくださったのですが、自分のことのように喜んでくれました。教え子のことをずっと気にかけてくださる。私もこの人のようになりたい、と憧れて研究者を目指すことを決めました。

研究を愉しみながら森林資源由来の材料を様々な分野へ展開

予想外な結果が出たら面白いとよく言われますが、私は予想通りにいくことも面白いですね。やる前に考えて考え抜いて仮説をたててやってみて、その結果が思ったとおりだったら“よっしゃ!”と嬉しくなります。狙った結果になるかどうかを知る瞬間がドキドキで、学生の頃は出てくる結果を紙で隠して少しずつ見たりしました。もちろん結果を見てダメだったなという時も多いのですが、その分うまくいった時の喜びは格別です。材料研究特有かもしれませんが、考え抜いたアイデアが形になった時は最高ですね。

研究成果を分かち合える共同研究仲間がいることも研究の楽しいところです。異分野間で共同研究を進めるプロジェクトでは、その難しさと素晴らしさを学びました。異分野融合研究では、全く違う分野の研究者とWIN-WINになることが鉄則だと思います。これが非常に難しい。全く知らない分野のことを学び、相手のことを知り、お互いにとってプラスになる研究テーマを考え抜きました。そんな困難の中で、ポジティブでフットワークが軽い仲間達と出会い、自分はこれができない、ではなく、「自分ならこれができる!」という考え方が肝要だと学びました。「できる」と「できる」の繋がりで共同研究仲間の輪が広がっていき、たくさんの異分野融合研究成果を挙げることができたのです。これら異分野間の共同研究成果が、森林資源由来の半導体ナノ材料や生分解性電子デバイス素子、ガン診断デバイス等の創出に繋がっています。

今後も、森林由来のナノセルロースをはじめとするバイオマス資源を高度に活用して、エレクトロニクス・医療・環境・エネルギー分野に向けた機能材料を開発し、廃棄したら肥料になってまた森林になるという循環型システムも提案していきたいです。日本は森林資源大国なので、森林資源の高度活用は国にとっても重要課題と考えています。ここで大事なことは、環境にやさしいだけでなく、機能も良くて皆さんが使いたくなる材料を開発すること。資源循環と高機能を両立した材料開発を進め、持続可能な社会の構築に貢献したいです。

現在開幕中の大阪・関西万博では6月10日~16日に、ナノセルロースの普及に取り組むナノセルロースジャパンが「ナノセルロースがもたらす持続可能な未来生活」をテーマに展示を行います(フューチャーライフエクスペリエンス内)。我々の研究成果である「脳波や心電を計測できる生体シグナルセンサー」や「ガン診断キット」も展示しますので、ぜひ見に来てください。

自分の武器を見つけ磨く
そのために必要なことは「考え抜くこと」

若手研究者や学生の皆さんには、ぜひ「考え抜くこと」をやり続けてほしいです。研究の世界はスピードが速く、次々と新たな研究成果が生まれています。その中で独自の研究に取り組み、成果を出すためには、自分の得意なこと・好きなことを見極め、活かす方法を考え、それを継続して磨き上げていくことが大事だと思います。考え抜いた分だけ、自分の武器に自分の色が出てきます。私の場合は、学生の頃から行ってきた“紙抄き”が武器だと思っていて、紙抄きの技術も磨きましたし、紙抄きのサイエンスも勉強しました。そうすると、自分の武器である紙抄きを活かして電子デバイスを作ってみようという新しい発想が生まれました。最近は“炭焼き”にも凝っています。きっかけは何でもいいと思います。これなら誰にも負けない、自分しかできないという武器は何か考え、その武器を磨くためには何をするのが良いのかを考え抜いて、積み重ねていってください。

コラム

Column

お気に入りの言葉はありますか?

温故知新です。紙抄きもですが、伝統技術など昔から長く続いているのは優れたところがあるからだと思います。その優れたところは活かすべきだと思いますし、新たな分野への新しい活かし方もあると研究を通じて感じています。温故知新の言葉を大切にしながら研究をしています。

印象に残っている旅先はどこですか?

石垣島です。開放感と非日常的な雰囲気に感動し、心が洗われました。ジャングルツアーでヤシガニを見たり、シュノーケリングでは間近を泳ぐウミガメに出会ったりなど自然を感じる体験ができました。ご飯も美味しいのでオススメです。

プロフィール

Profile

古賀 大尚 KOGA Hirotaka

大阪大学産業科学研究所 准教授

博士(農学)。大阪大学産業科学研究所特任助教(常勤)を経て、2018年5月より大阪大学産業科学研究所准教授に就任。現在に至る。

掲載日:2025年5月26日/取材日:2025年4月17日 内容や経歴は取材当時のものです。

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