#021

ものづくりの視点から生命が持つ自律性に迫る

戸田 聡

大阪大学蛋白質研究所 准教授

戸田 聡

「ものづくり」から「いきもの」の最先端研究へ

ものの仕組みやエネルギー問題に興味があったことから、大学では工学部に進み、エンジンの組み立てなどを学びました。また、メーカーのエンジニア職を肌で感じるため、三年生の時には機械メーカーのインターンシップで部品設計に携わる経験もしました。ところが、その経験を通じて企業就職への願望はある程度満たされてしまい、大学で研究を続ける進路への興味がふくらんでいきました。
生命系の研究職に興味が芽生えたのは、ちょうど同じ時期、生命科学系の研究室で実験を体験させてもらったことがきっかけです。実は高校では緑豊かな環境で過ごし、生物部で野外観察をするなど、もともと「いきもの」にも興味を持っていました。工学部で培った「ものづくり」の視点と、「いきもの」への探究心。 この2つの考え方が、現在の私の研究の原点となっているように思います。

合成生物学との出会い:生命をデザインする科学への挑戦

大学院時代は長田重一先生(現阪大IFReC、当時京大)の研究室にて、細胞の貪食機能(異物や死細胞を取り込み消化・分解する作用)のメカニズムに関する研究に取り組みました。私の当時のテーマは貪食作用のない細胞を用い、そこに遺伝子操作を重ねて、貪食作用の効率が格段に上昇する条件を探索するものでした。具体的には、受容体や分泌因子、細胞骨格に関わる因子などいくつかの要素を組み合わせて細胞の挙動を解析し、貪食という機能を生み出す条件を解明していくアプローチです。ある種、機能を作り出す工学的な考え方をいきものに当てはめて研究を展開していくことを経験し、これが「合成生物学」という分野に強く興味を抱くきっかけとなりました。

当時、合成生物学の研究はアメリカが先行しており、人工ゲノムをもった細菌や白血病細胞を退治するCAR-T細胞といった技術が話題となっていました。中でも私が最も魅力を感じた研究者は、キメラタンパク質(2つ以上の蛋白質をくっつけた人工蛋白質)やオプトジェネティクス(光で特定のたんぱく質を制御する技術)などを用いて細胞の機能を合成する論文を次々と発表されていたWendell Lim教授です。当時、私は細胞集団の模様を作りたかったのですが、その希望とともにLim教授にジョブインタビューをお願いしました。初めての海外で英語には苦労しましたが、熱意はどうにか伝わったのか、Lim研究室への留学に踏み出すことができました。さらに幸運だったのは、私の留学と同時期にLim研究室で細胞のふるまいをデザインできる人工受容体が開発されたことです。例えば、ある細胞が別の細胞に出会ったときに光ったり、接着したり、死んだり、といったようにです。現在、私は培養細胞のふるまいをデザインして、細胞の集合が単なる肉塊ではなく「いきもの」のように自身の形やサイズを制御する仕組みを解き明かすことを目指しています。また、これが実現すると組織再生などの医療応用にも繋がるのではないかと、医工連携の取り組みも始めています。

「出会い」が人生を変える

振り返ると、ふとした「出会い」が私の研究人生の転機になった場面が多かったと思います。工学部から生命系に分野を変えるきっかけとなった先生方との出会いや長田研究室での経験がなければ、早くに企業就職していたかもしれません。また、海外では留学中の先輩や同僚、異分野の先生など様々な方に本当にお世話になりました。私は将棋が趣味の1つですが、私の好きな言葉に、故大山康晴永世名人の「助からないと思っても助かっている」という一節があります。形勢が非常に厳しいとき、もうダメだと思って盤上を見るのと、助かる道が必ずどこかにあるはずだと思って盤上を見るのとでは、結果が変わってくる、という教えです。研究も試行錯誤の連続ですが、どんな壁にも必ず迂回路があるというような心持ちで取り組んできました。何か興味を感じたらまずは一歩踏み出して、進みながら色々な「出会い」を通して道は開かれていくように思います。

コラム

Column

阪大のおすすめの場所、リラックスタイム

研究所近くの池の淵で亀が甲羅干しをしているのを見ると、なんだかほっとします。吹田キャンパスは自然が豊かで、春には池沿いの桜が咲き、竹林ではタケノコも顔を出します。研究室によく虫が入ってくるのは困りますが、ちょっとした日常を愉しむことが自然とストレスを和らげてくれます。

おすすめの旅先は?

学会で訪れた場所はどこも魅力的でしたが、特にポルトガルとドイツが印象に残っています。どちらも風景が美しく、ポルトガルのパンやドイツのシュニッツェルなど現地の食べ物が美味しかったです。

プロフィール

Profile

戸田 聡 TODA Satoshi

大阪大学蛋白質研究所 准教授
博士(医学)。2016-2019年Human Frontier Science Program Long term fellow (カリフォルニア大学サンフランシスコ校)、2019-2024年金沢大学、ナノ生命科学研究所 助教(Jr. PI)を経て、2024年大阪大学蛋白質研究所 准教授。現在に至る。

掲載日:2026年1月5日/取材日:2025年4月24日 内容や経歴は取材当時のものです。

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